技術収益化への道

技術の収益化に向けたよもやま話です。自身の忘備録も兼ねています。

知財戦略って何?

『新規事業の方針を決めたから、知財戦略を立ててくれないか。』

『この事業、知財戦略を考えてこなかったから、知財戦略を立ててくれないか。』

こんなお願いをされたことはないでしょうか。一見普通のやりとりに感じるかもしれませんが、個人的にはもったいないと感じてしまいます。「知財戦略」が、事業戦略が固まった後に検討されているためです。

 

知財戦略は事業戦略とともに

知財戦略」という言葉を使う時、おそらく話し手と聞き手のイメージにはギャップが生じることが多いです。事業の段階に応じて様々な知財に関する戦略があるため、発言者の意図と聞き手が連想するものとが一致しないことが良くあります。

私がイメージする「知財戦略」は事業戦略に寄り添うものです。市場の選定、市場規模の拡大に向けた方針策定、商品(サービス、ビジネス)の決定、自社事業範囲(全て自社製造、他社調達との組合せ、等)の設定、商流の選択、ブランディングなど、事業戦略を練る種々の段階で、知財情報を活用する機会があります。知財情報はマーケティングツールの一種として認識されている方もいらっしゃるでしょう。そのため、知財情報やそれに基づく知財戦略を考慮せずに事業戦略を固めたケースを見ると、もったいないと感じてしまいます。事業戦略が固まった後に知財戦略を検討しても、事業戦略を遂行するための知財戦略という位置づけとなってしまいます。そのため、事業の枠組みを劇的に改善するような提案は難しい可能性があります。より良い事業の全体像を形作るため、あるいはより納得感のある事業戦略を練り上げるために、早い段階から知財情報を活用することをお勧め致します。ある程度事業戦略が固まった時点で、見通しの確度を高めるために知財情報を活用する形でも良いかと思います。何れにせよ、事業戦略を構築する上で、知財情報に基づく知財戦略を検討することは非常に有益です。

 

事業戦略の遂行に向けた知財戦略

 事業戦略を策定し、製品や想定顧客が見通せる段階になれば、出願戦略を立てることになります。自社と競合における製品、製造工程、商流などを考慮した望ましい特許網(国内外含む)や、特許出願する発明と営業秘密として秘匿化する発明とを分ける基準など、事業戦略を遂行するための出願戦略は必要になります。人によってはこの出願戦略を意図して知財戦略と呼ぶことがあるでしょう。加えて、出願戦略だけでなく、競合の特許権を侵害しそうな場合の対応(回避、社内整理、無効化、ライセンスなど)、共同開発や製造委託する際の契約業務、自社特許権の活用方針、なども、事業戦略の成功に向けて考えべき知財戦略と言えるでしょう。

 

まとめ

事業戦略を検討する段階から、知財情報に基づく知財戦略を取り入れることは有益です。事業戦略を練る様々な段階で知財情報は活用できますので、できることから取り組みましょう。

ところで、お伝えしてきたように、「知財戦略」という言葉は使う人や状況により意図するものが異なる、ある種のマジックワードと言えます。組織の中で使う言葉は自由に決めれば良いですが、『うちも今後は知財戦略を強化していきましょう。』と会議で締めくくられた場合、全員が何をすべきか正しく共有できているでしょうか。思考停止で使わないよう注意することはもちろん、話し手と聞き手の認識が一致するよう具体的に伝えることをお勧め致します。